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前穂高岳からの奥穂高岳の朝焼け③

さて、今日は2日目の話を進めていこう。

予定通り山小屋を深夜の1時半に出発。

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辺りは本当に真っ暗。目が慣れるということは無い。全く明かりが無いのだから。

私は持ってきたヘッドライトと、手持ちの懐中電灯で辺りを照らし、かなりの勾配のある山道を、ただひたすら登って行く。

一歩一歩確実に、ゆっくりと、でも5時前には頂上に居ないといけないというプレッシャーを抱えながら・・・。

思った以上に急勾配で、足元も暗く頂上に着いたのは、若干日が差し始めた頃と記憶している。

間違いなく辺りには、誰も居ず、ただ一人、前穂高岳の頂上に立っている。

天候は快晴。西の空に羊雲が少しある。やはり自然は私に、微笑んでくれた。

奥穂高岳の稜線の東から西に雲海が流れている。なんと美しい。なんと美しい。

私は、見惚れる思いを抑え、三脚を立て、カメラをセットする。

奥穂高岳の頂上付近は、ちょっとだけ赤く染まっている。
気温は、多分2~3度であったろう。寒さを感じることなく、その目の前の光景を納めたい一心であった。

時間にして約20分。何枚のシャッターを切ったろう。200枚いや300枚はいったろう。

「無我夢中」とは私にとってこのことを差す。

私の、心の奥底に潜む生きがい、原点のようなもの。美しく、嬉しく、しばらく余韻に浸り、地球が回る光景をぼーっと眺める。

その頃使っていたカメラは、キャノン35MMで、デジタルカメラではなく、リバーサルフィルムISO50の感度の物を使用していたので、その場で、撮った画像を見ることは出来ない。家に帰って現像屋に出し、出来上がるまで時間がある。

今思えば、見ることが出来ない、時間がかかることが、楽しみの一つであったな~と思うこともある。ぼーっとしていた時間は、30分くらいであったか。
いきなり寒いことを感じて、下山を始める。

本日までに、この一人しか居ない別世界から、何もかもそろう自宅に帰らなければならない。

待っている家族と、子供、職場の仲間の居る現実世界に帰るのである。

毎日の小さな幸せと心の奥底に潜む大きな幸せ。どちらも大切な幸せを感じながら、今を生きて行こう。

前穂高岳 奥穂高岳 有難う  終わり

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